歯周病と聞くと、やはり歯茎を中心とした口腔組織の病気というイメージが強いかと思います。
しかし、実際はさまざまな全身疾患と関係性があり、歯科業界では“死に至る病”として非常に恐れられています。
ここからは、歯周病が死に至る病である理由について解説したいと思います。
歯科業界で流行した“Floss or Die!”
数年前、歯科業界では“Floss or Die!”という言葉が流行しました。
こちらは、“フロスか死か”という意味であり、「歯ブラシやフロスを使用し、口内を健康に保って長生きしますか?それとも、それらを怠けて、病気にかかって早く死にますか?」というメッセージが込められています。
1997年、アメリカの歯周病学会が、歯周病予防のためのスローガンとして発表しました。
つまり、歯周病は全身疾患につながる可能性が高く、その中には命の危険にさらされる病気も多く含まれるということです。
このことから、間接的にではあるものの、歯周病が死に至る病であることがわかります。
歯周病が関連する“死に至る病”について
歯周病の悪化により、発症する可能性のある全身疾患、つまり死に至る病には、主に以下のものが挙げられます。
・糖尿病
・細菌性心内膜炎
・誤嚥性肺炎
・脳梗塞
・腎臓病
糖尿病
歯周病が糖尿病そのものを引き起こすわけではありませんが、歯周病を治療せずそのままにしていると、炎症によって生じるケミカルメディエーターという物質が増加します。
こちらは、細胞から細胞への情報伝達に使われる化学物質であり、増加することで筋肉細胞や脂肪細胞に作用し、糖の代謝機能を妨げます。
さらに、肝臓の働きを鈍らせ、グルコースの代謝を低下させるため、結果として糖尿病を悪化させることになります。
ちなみに、糖尿病の方は、血糖値の高い状態が続き、細い動脈だけでなく太い動脈にもダメージを与えます。
動脈は、心臓から全身に酸素と栄養素を送り込む血管で、動脈硬化が進行すると内壁の弾力性がなくなったり、詰まったりして、心筋梗塞や狭心症、脳梗塞を引き起こし、最悪の場合死に至ります。
細菌性心内膜炎
細菌性心内膜炎とは、心臓内部を覆っている心内膜、心臓弁に細菌が感染し、炎症を起こす病気のことをいいます。
こちらには、急性と亜急性がありますが、亜急性細菌性心内膜炎に罹患している患者さんの病変部、血液を調べると、歯周病細菌が見つかることが多いことから、発症には歯周病が大きく関与していることがわかりました。
具体的には、歯周病の原因菌が亜急性細菌性心内膜炎を引き起こし、最終的に心臓の血管を詰まらせたり、血管の細胞に障害を与えたりします。
また、細菌性心内膜炎は、未治療のままだとほぼ100%死に至り、治療を行っても死亡率は15%と高いです。
誤嚥性肺炎
誤嚥性肺炎は、食べ物や唾液が誤って気管に入ってしまうことにより発症する、肺の炎症です。
肺炎は、近年では日本人の死因第3位という高い割合を占めています。
そのうち、誤嚥性肺炎が原因で死亡した方は、80代の約8割、90歳以上の9.5割以上と、高齢の方が多いことがわかっています。
また、高齢の方に誤嚥性肺炎が多いのは、食べ物や唾液と一緒に、歯周病菌が気管に入り込んでしまうことが主な原因です。
肺炎を引き起こす細菌にはさまざまな種類がありますが、共通しているのは酸素を嫌う嫌気性という性質です。
歯周病菌の多くはこちらの性質を持っていて、実際誤嚥性肺炎の患者さんから検出される細菌は、歯周病菌をはじめとした口腔細菌が大半を占めます。
脳梗塞
脳梗塞は、脳の血管が詰まってしまい、酸素や栄養が届かずに、脳細胞が死んでしまう病気です。
こちらは、年間に約11万人が死亡している、とても危険な病気であり、歯周病と関連していることもわかっています。
歯周病の原因菌の刺激により、動脈硬化を誘導する物質が出て、血管内にプラークができると、血管の内腔は狭くなります。
また、プラークが剥がれて血液の塊ができると、その場で血管が詰まります。
その結果、脳梗塞を引き起こします。
ちなみに、歯周病の方は、そうでない方のおよそ2.8倍脳梗塞のリスクが高いと言われています。
腎臓病
腎臓病は、腎臓の糸球体や尿細管が冒されることで、腎臓の働きが悪くなる病気です。
従来から、透析を受けている方の多くに重度の歯周病が見られることが指摘されていましたが、ここ十数年ほどのさまざまな研究により、これらの症状に関連性があることがわかってきました。
具体的には、腎臓病の発生と関係がある動脈硬化などにより、直接的に歯周病が腎臓病と関連していたり、慢性腎臓病により、免疫機能の低下や骨代謝異常が起こり、歯周病の進行が影響を受けたりすることです。
まとめ
ここまで、歯周病が死に至る病である理由について解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
歯周病が恐ろしい病気と言われる理由は、口内環境を破壊し、歯を失ってしまうリスクがあるだけでなく、前述したような死亡リスクのある病気の引き金になることも挙げられます。
また、十分に歯周病を予防するには、自宅で行うケアだけでなく、歯科クリニックでのプロフェッショナルケアも必要不可欠です。
