根管治療は、重度の虫歯に適用される歯の根っこの治療です。
なかなか通院する時間がなく、虫歯が悪化してしまった方などは、こちらの治療の対象になりがちです。
では、根管治療が必要にもかかわらず拒否すると、患者さんはどうなってしまうのでしょうか?
今回はこちらの点について解説します。
激痛と歯根膜炎への悪化につながる
根管治療を拒否して放置すると、最初に直面するのが痛みの質の変化と激化です。
初期の段階では、歯の内部にある神経が炎症を起こし、冷たいものや熱いものに敏感に反応する歯髄炎の状態にあります。
この段階で治療を拒否すると、やがて神経は細菌に侵されて完全に壊死します。
神経が死ぬと、一時的に痛みを感じなくなる無痛期が訪れることがありますが、これは治癒したわけではありません。
むしろ細菌が根管内で爆発的に増殖し、歯の根の先にある歯根膜という組織へ侵入を始めた合図です。
歯根膜は、歯と顎の骨を繋ぐ非常に繊細なクッションのような役割をしていて、ここに炎症が起きると、以前とは比較にならないほどの激痛が走ります。
歯根膜には痛みを感じる神経が密集しているため、歯が数ミリ浮いたような感覚になり、上下の歯を軽く合わせるだけで飛び上がるような痛みを感じます。
これにより、食事を摂る、会話をするといった日常動作すら困難になります。
さらに炎症によって膿が溜まり始めると、内圧が高まり、拍動性の痛みが24時間続くようになります。
この段階では市販の鎮痛剤がほとんど効かないことも多く、夜も眠れず、精神的にも追い詰められるほどの苦痛を伴うことになります。
根尖性歯周炎と嚢胞のリスクも上昇する
根管内の感染を放置し続けると、細菌とその毒素は歯の根の先端から顎の骨の中へと漏れ出していきます。
これに対抗しようとする身体の免疫反応により、根の先に根尖性膿胞と呼ばれる膿の袋がつくられます。
これが根尖性歯周炎です。
初期は自覚症状がないことも多いですが、レントゲンを撮ると根の先に黒い影としてはっきりと映し出されます。
この袋は風船のようにゆっくりと膨らみ、周囲にある健康な顎の骨を溶かしながら拡大していきます。
また骨が溶かされることで歯を支える土台が失われ、最終的には健康な歯であってもグラグラと動揺し始めます。
さらに溜まった膿が限界に達すると、骨を突き破って歯茎の表面にフィステルという小さな出口を作ります。
見た目はニキビのようですが、そこから常に悪臭を放つ膿が排出されます。
膿が出ると一時的に圧力が下がって痛みは和らぎますが、感染源である歯の内部が放置されている限り、膿はつくられ続けます。
最悪の場合、この膿胞が巨大化して周囲の神経を圧迫し、唇の痺れや麻痺を引き起こすこともあります。
さらに隣接する健康な歯の根まで膿胞に取り込まれてしまうと、一箇所の放置が原因で複数の歯を同時に失うという最悪の連鎖を招くことになります。
嚢胞が大きくなりすぎると、通常の根管治療では対応できず、歯茎を切り開いて嚢胞を摘出する外科的な手術が必要になります。
顎骨骨髄炎や蜂窩織炎に波及するおそれも
口内だけの問題だと過信して根管治療を拒否し続けると、細菌は歯の周囲組織を越えて、顎の骨の深部や周囲のやわらかい組織へと急速に広がっていきます。
顎の骨全体に感染が広がると、顎骨骨髄炎という重篤な疾患に発展します。
これは骨の組織が腐敗していく病気で、高熱や倦怠感、リンパ節の腫れといった全身症状が現れます。
顎の骨が腐ってしまうと、壊死した骨を取り除く大規模な手術が必要になり、顔の形が変形してしまうリスクも伴います。
一度骨髄炎になると治療は非常に困難で、長期間の入院と強力な抗菌薬の点滴が必要になります。
さらに恐ろしいのが、細菌が顔や首の脂肪組織に沿って広がる蜂窩織炎です。
顔の半分がパンパンに腫れ上がり、目が開けられなくなったり、口が全く開かなくなったりします。
細菌が首の奥深くまで進行すると、喉の粘膜が腫れて気道を塞ぎ、窒息死する危険性があるルードヴィッヒ・アンジーナという状態に陥ることもあります。
また細菌が血管内に侵入して全身を巡ると、敗血症を引き起こし、心臓や脳といった重要な臓器に障害を与えるケースも報告されています。
抜歯と高額な治療費のリスク
根管治療は、いわば“歯を残すための最後の砦”です。
この治療を拒否するということは、その歯を自ら捨てると宣告したに等しいと言えます。
放置によって歯の大部分が虫歯に溶かされ、根の先までボロボロになった状態では、どれほどの名医であっても歯を残すことは不可能です。
最終的には、激痛や全身への感染を防ぐために抜歯を選択せざるを得なくなります。
しかし、抜歯して終わりではありません。
抜けたまま放置すると、隣の歯が倒れ込み、噛み合わせが崩壊して他の健康な歯まで次々とダメになっていくため、必ず何らかの方法で補う必要があります。
その際に選択されるインプラントやブリッジなどは、いずれも根管治療よりも身体的・経済的負担が大きくなります。
例えばインプラントの場合、一本あたり30万〜50万円という高額な自費診療が一般的です。
また、健康な両隣の歯を削って支えにするブリッジは、本来削る必要のない歯の寿命を縮めることになります。
根管治療であれば保険適用で数千円から数万円、通院も数回で済んだはずが、拒否した代償として、より多くの時間と数十倍の費用を支払う結果になります。
まとめ
根管治療は、重度の虫歯を完治させるにあたって欠かせない治療です。
また痛みを増幅させたり、他の疾患につながったりするリスクを回避するためにも、根管治療は受けなければいけません。
治療に対する不安や恐怖心がある方は、事前にカウンセリングを受け、歯科医師としっかり言葉を交わしましょう。
そうすれば、根管治療が怖いものではないと理解できるはずです。
